第五章「不死鳥リレー・春の巻」

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全身を無駄なく使った右のサイドスロー。 腕が見事に撓り、体重移動もスムーズだ。 素人が見よう見まねで出来るフォームではない。 しかし、ボールはストライクを大きく外角に外れた球。 すっぽ抜けたか? そう思った矢先、 「えぇ!」 ボールは鋭く変化――スライドしてきた。 外角ギリギリに決まりストライク。 (凄く大きく変化するスライダーだ) 球速は大した事はない。湊と同等といった感じだ。 2球目。 一変して内角高め。 「くっ」 思わず仰け反る。 が、ボールは鋭く変化し、落ちる。 サイド、アンダースロー投手の決め球として知られ、利き腕側に打者の手元で落ちる変化球。 シンカー 見送ってストライク。 あっという間に2ストライク。 これが始球式だと忘れてしまいそうな球だ。 「本当、僕は何でここにいるんだろう・・・」 本来投手の湊は打撃は専門外なのに。 きっと郁乃の憂さ晴らしなのだろう。 ともあれ、郁乃の性格から次が決め球になるだろう。 スライダーか、シンカーか。 意表をついてストレートやチェンジアップも考えられる。 バットを短く持ち、次の球に備える。 郁乃の3球目。 ど真ん中の打ち頃の球。 これを狙うが、ボールが手元で縦に鋭く落ちた。 「た、縦のスライダー?」 湊は空振りの三振。 「・・・少しだけ、スッキリしました」 一人だけ満足してどうする・・・。
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