粛正

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 外で聞こえた銃声に思考が再開する。  そうだ、目の前にいる人だけじゃない。  まだ捜すべき人がいる。 「どこ行ったんだ……」  両親に逃がされたのかも知れない。  もし、そうだとすれば絶望的だ。この街の中で延々と人探し、なんて自殺行為もいいところだ。 「どこ行ったんだよ、ルナ……」  友人よりも、知人よりも、真っ先に思うのは幼馴染のこと。  小さい時からずっと一緒で、これからもそれは変わらないと思っていた。  それが今、その思いが今、潰えてしまいそうで……フォルトは軽く絶望を味わいそうになる。  まだ、別れたくはなかった。まだ、告げたい事があった。まだ、やりたい事があった。  フォルトはまだ16歳でルナはまだ14。  まだまだ先がある。ルナなど、まだ成人していない。  フォルトはルナが成人したら、プロポーズをしようと決めていた。  それが今、目の前で完全に崩れ去りそうで…… 「く……っ」  泣きそうになるのを、必死で堪えた。 「フォルト……?」  ふと、震えた声がしてフォルトは顔を上げた。 「ルナっ? どこだ!」  家の中を見渡せば、ベッドの下から両親の血を纏いながら這い出てくるルナの姿。 「ルナ! 良かった!」  這っていたルナを助け起こし、抱き着く。 「フォルト……」  その声は未だに震えており、フォルトは安心すればいいな、なんて思いながらルナを強く抱きしめた。 「大丈夫、大丈夫だ……俺も居るから、一緒に逃げよう」 「…………っ」  ルナが泣き出す。  敵に見付からないように息と共に殺していた感情が、知っている顔を見た安堵により吹き出す。 「ルナ、逃げよう。俺もまだ死にたくない」  ルナが泣きながら、涙を拭いながら、頷く。 「おじさんとおばさんが命懸けで守ったんだ。俺も引き継いで守ってやる」  やけに真剣な表情で言う自分に、こんな恥ずかしい台詞よく言えたな、なんてフォルトは思って苦笑した。 「逃げ切ってから、一緒に泣くぞ。今は街から離れるんだ」  言ってフォルトが立つと、ルナも涙を完全に拭い頷いてから立ち上がる。 「じゃあ……」 「待って」  行こうとするフォルトを、ルナが制した。
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