粛正

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 ルナはフォルトを呼び止めると、両親に向き直った。  真っ赤に濡れて動かない両親から目を逸らしてしまいたくなるが、それをぐっと堪える。  母の首飾りを外し、言う。 「お母さん……もらうね。ごめんなさい……」 (形見か……)  フォルトはそれを黙って見ながら、自分は何もないな、なんて考えていた。  自分は薄情者かも知れない、そんな風に思いながら。 「ごめんね……いいよ」 「……もう持ってく物、ないか?」 「うん……これだけ」  言って出した手の平には母の首飾りと家族の写真。 「……行くか」 「うん……」  二人はそうして、ゆっくりと家から出て行った。 「退けぇぇぇええッ!」  白刃が白刃を弾き、剣を空高くに弾き飛ばされた騎士はがら空きになった体を肩から袈裟斬りにされ、倒れた。 「走れえッ!」  リギトは振り返り、母に叫ぶ。  彼は初めて握ったにも関わらず、剣を手足のように自然に振るっていた。  母はそれに驚愕したが、今は息子のその才能を受け入れ頼る外ない。 「リギト、貴方一体……」  母の問いにリギトは吐き捨てる。 「俺が聞きたい!」  言って、舌打ち。  親父の言ってたセンスって何なんだ? 敵と対峙すると、勝手に体が動いてしまう。  頭の中は真っ白で、知識などない。  体がまるで戦闘を知り尽くしているかのように、自然と動くのだ。  そして、この街の現状に緊張感は高まり直感なども冴え渡る。 「――――!」  首の後ろにぴりぴりと電気が走るような感覚を覚え母を押し倒して転がると、先程までリギトの頭があった場所――住宅の壁が弾けた。  銃声の方に顔を向ければ銃口をこちらに向けた騎士――。 「ここで待ってて!」 「リギト!」  騎士に向かうリギトを止めようと声を掛けるが、リギトが止まる気配はない。  駄目だ。  いくら才能があるからと言っても、銃弾の速度には敵わない。  だが、次の銃弾が放たれる瞬間をリギトは凝視していた。 (一度放てば銃弾は軌道を変えない……撃つ瞬間、その瞬間の銃口の位置を見れば……避けられる!)  そして、トリガーが引かれる瞬間を――彼は見逃さなかった。
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