粛正

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「私と、お父さんの事……知りたい、なら……ラース=リリアンって、男……に……」  話をしたいと思えば思う程に、母の瞼は閉じてゆき、声も聞こえなくなってゆく。 「お袋! お袋……! くそ! 畜生! 畜生、畜生、畜生ぉぉおおッ!」  母は何も語らずただの屍に変わる。  大通り程ではないが、この路地にだっていくらかの死体はある。そこに、今……母が加わったのだ。  リギトは母を横たえ、剣を手にして立ち上がる。 「やってやる……」  もう、逃げる気など起きなかった。  ただ浮かぶのは、怒り。  その感情のみ。  理不尽に命を狙われ、不条理に殺された両親。  まだ知りたい事もあったのに、まだ父と母に孫の顔も見せていないのに。  何が粛正だ。  何が法律だ。  国が正義だと言うのなら、自分は悪でも構わない。  こんな事、終わらせなきゃ駄目だ。  決意を固め、リギトは大通りに向かう。  そこには裏路地や小道とは比べものにならない程の騎士がいる。  自殺願望などない。  ただ、やらねばと思った。  自分は戦える。一人でも戦えない者が助かる可能性を作る為に、一人でも多くの騎士を減らす。  恐怖感は不思議な事に――微塵もなかった。  ――手が震える。  フォルトは白煙を上げる拳銃を握る右手を、左手で押さえた。  躊躇うな、とワイズに言われそれを実行したまで。  いとも容易く、拳銃は命を奪う――筈だった。 「…………」  歩いてくる騎士から、左手で庇うようにしてルナを後ろに追いやる。 (甲冑……!)  素人が甲冑の合間を塗って、銃弾を繋ぎ目に当てるなど不可能。  リギトのように才能があるならばいい。彼は鎧の留め具を破壊し、甲冑を強制的に剥がしていた。  天才、そう呼ぶ者もいれば――化け物、と呼ぶ者もいるだろう。  だが、残念ながらフォルトはそのどちらでもない。  この状況で、助かる方法など皆無だった。  だから、フォルトは渇いた喉に生唾を飲み込み、決意しようと思ったのだ。 (告白……しちまおうかな)  こんな状況で浮かぶのは背後にいる少女の事ばかり。  自分が死んだ後、ルナがどうなるか……そればかりが心配で。  自分の命の危惧など……どこかへ飛んでいた。
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