粛正

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「はぁ……はぁ……くッ」  息を整えて騎士を睨む。 (これだけやり合って息一つ乱れやしねえ……化け物か、こいつ……?)  ワイズだって相手に引けは取っていないし、互いにまだかすり傷程度だ。  それなのに、明らかに消耗の具合が違う。  ワイズは舌打ちした。 (逃げ、か……気が進まねえな)  だが、このまま続けていったとしても疲労の具合からいって、こちらの勝ちは有り得ない。  だから、ワイズは互いの剣を弾き、外に出た。 「埒があきゃしねえ……!」  背後から追ってくる騎士には振り返らない。  銃は脅威だが、当たらないようには心掛ける。直線で走るから当たるのだ。  しかし大通りを見てワイズは歯を噛み締めた。  見渡せば赤、赤、赤。  死体、死体、死体。  悲鳴、悲鳴、絶叫。 (てめえ等が粛正されちまえ……!)  心の中で悪態を吐くと、目の前に見知った顔がおり騎士と戦っていた。 (あれは確か、ローライト通りの気真面目息子……リギト!)  衛兵をやっていて良かったと思う。住民の顔を見れば誰だか分かるのだから。  そしてワイズは彼を見て、息を呑んだ。 (こっちにも居たか……化け物が……!)  彼は騎士に反撃の隙すら与えず、甲冑などは物ともせず、自分を囲む騎士の三名を斬り伏せた。  その顔が、こちらに振り向く。 「おい、リギ――」  呼び掛けたワイズの、その横を疾風が駆け抜けた。  髪は靡き、身はその威圧感に転びそうになる。  剣劇の音に、現実に引き戻されたように振り向く。  既にワイズを追っていた騎士とリギトは切り結んでいた。 「馬鹿、やめろ! そいつは指揮官だ、他の騎士とはわけが違うッ!」  必死に叫ぶが、そんなものは今のリギトには届かない。 「指揮官……?」  いや、届いていたようだ。  そこにリギトはただならぬ反応をした。  こいつが、この惨状の指揮を……!  莫大なプレッシャーが、リギトの体から吹き荒れる。 「……お……」 (な、なんだ? どうしちまったんだッ?) 「おぉ……おおぉぉぉぉぉぉおおおおおッ!」  獣の咆哮が、街に響き渡った――。  リギトの瞳に揺らぐ激情は、怒り一色。  ここで化物と化物の戦いが今、始まった。
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