粛正

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 その咆哮は確かにフォルトとルナの耳にも届いていた。 (なんだ……?)  その咆哮に何かしら嫌なものを感じる。  ここに咆哮の主がいるわけでもないのに、こめかみ辺りを汗が伝う。  気付けば、騎士に背を向けてルナを抱きしめていた。  どうせ助かる方法などない、この銃一丁でやれる事など限られている。  ならせめて最期はルナの温もりの中で果てよう。  すぐ近くで、銃声が――聞こえた。 (案外、痛くねえな……)  そう思うと、なんだ、こんなものか、と少し呆気に取られてしまう。  だが、一向に意識が遠ざからない。 (……ん?)  どさり、と背後から何かが落ちる音がする。  恐る恐る振り返れば、倒れた騎士の姿。 (俺じゃなくて、こいつが撃たれた……?)  だが確かに自分の撃った弾は甲冑に弾かれた筈だ。ならば、どうやって……? 「よっと」  と、そんな明るい声がして上を見れば住宅の窓から飛び降りてくる人影。  その男は着地すると、帽子の位置を整えてフォルトに向き直った。 「生き残りって、お前等だけか?」 「……は?」  フォルトの正直な感想としては、なんだこいつ? だった。  この街の者とは明らかに違う服装。そのスタイルはもっともっと西の方にいる民のものだ。  今では、その西でもそんな格好をしている者は少ない。 (なんだ、この時代錯誤なカウボーイは……) 「来るのが遅れちまったな……もしかして俺だけか?」  大通りの方を見ながらぶつぶつと言う男にフォルトはまたも恐る恐るといった様子になり、男に声をかけた。 「な、なぁ、あんた……」 「ん? あぁ、悪い。騎士って何人ぐらい居るか分かるか?」  その言葉にフォルトは首を横に振る。 「分からない。最初は数人だったのに、なんでか数がどんどん増してるんだ……」  恐らくこの人が助けてくれたんだろう。そう思い、信用して話した。  そして 「な、なあ、助けてくれよっ。あんた強いんだろっ?」  厚かましくも、頼んでみた。  自分一人でルナを守れるとは思えない。  恥でも情けなくてもいい。どうしてもルナだけは守りたかった。  それが自分の力では、なかったとしても。 「……いいぜ。街の外まで、だけならな。生憎と俺にも用がある」  そしてカウボーイは――それを受け入れた。
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