粛正

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「は……ッ、はぁ……は……ッ」  二人の少年と一人の少女が街道から外れた道を走っていた。  道は整理されておらず、草村を走れば様々なものに転びそうになる。  そんな中を、街を背にして歳もばらばらな三人が走っていた。 「走れ走れ! まだ来やがるぞッ!」  一番年上に見える少年が最後尾を走りながら、背後を確認して二人に言う。 「くっそ……! まだ走れるか、ルナ!」  一番前を走る少年が言って振り返る。  二人の少年に前後を守られるように挟まれて走っていた少女は、息を整える事さえ必死だった。 「だ、いじょ……っ」  少女は健気にもそう言ったが、誰がどう見ても大丈夫なわけがない。 「畜生……!」  少年が悔しさと怒りに身を震わせて唸る。 「ちっくしょおぉぉぉぉおッ!」  一気に叫び、ルナと呼んだ少女の前で急にしゃがみ込む。 「フ……フォルト……っ?」 「乗れ! 女一人くらい背負ってたって平気だ!」  おぶされ、そう言ってくるフォルトにルナは戸惑ってしまう。 「照れてる場合じゃねえだろ! 早く!」 「――う、うんっ」  急かされてルナが慌ててフォルトの背に乗ると、彼ははまた走り出す。 「あっちに昔使われた坑道がある!」  と、いつの間にか隣にきて並走していた少年が言う。  ルナを背負っているせいで、少なからずフォルトの速度は落ちていた。 「坑道なんかに行ってどうするんだよ!」  坑道とは言え、結局は人が掘り進めただけの洞窟。  これで行き止まりでした、なんて笑い話にもならない。 「ちゃんと道があるんだ!」 「本当だろうな、リギト!」  フォルトの怒声に慌てる事もなく、リギトは力強く頷いた。 「俺の爺さんが、昔そこの鉱夫だった。抜け道がある!」 「……分かった!」  二人は速度を上げる。  息なんか既に乱れ切っているし、足だってもつれる。  街から、普通ならば2時間かけて行く山までの全力疾走――限界はとうに過ぎていた。  彼等はただの子供で、彼等はただの町民で、彼等は平凡だったから。  でも、それでも必死に走り、それでも必死に逃げ続ける。  理不尽な死は……もう、すぐ背後まで迫っていた――。
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