704人が本棚に入れています
本棚に追加
――事の発端は、なんとも単純。それでいて、なんとも非現実的。
フォルトの家に、数人の騎士がやってきた。
その騎士は軽装備で、胸当てと肩当てしかしておらず背後にいた者達は甲冑。
その肩当てには、もはや誰も知らぬ者がない紋章――盾が剣に貫かれている、力を誇示したような紋章は、王立騎士軍……。
「リーゲインス家だな?」
「そ、そうですが……」
その言葉が、父の最後の言葉だった。
――銃声。
――崩れ落ちる父。
――泣き叫ぶ母。
――銃を構え無表情なまま直立不動の騎士。
次に告げられた言葉に、世界は色と音を失った。
「貴様等は王の判断により破棄が決定した」
「な、何故ですか!」
母が父に縋り付きながら叫ぶ。
……なに、これ?
頭がついていかない。現実を受け入れられない。
だって、おかしいよ。
突然、人の家にやってきて、休日だって言うのに、人の父親に鉛玉をぶち込むなんて……有り得ないだろ?
「貴様等家族には不適切な発言及び行動が見られた。解らぬのならば自らその胸に聞くがいい」
「そんな、わ、私達は何も……ッ!」
騎士が銃口を母に突き付ける。
右手に構えられた銃。左手は偉そうに腰の後ろ……騎士は無表情なまま言い放つ。
「貴様等は粛正に選ばれた。貴様等の死は少なからず世界を洗い、世界はまた一歩正しい形に近付く」
――粛正。
それを聞けば、母もフォルトも状況が理解できた。
一気に顔が青ざめ、寒気まで襲ってくる。
何故? 何故、家が選ばれた? 国に目をつけられないようにしてきたつもりなのに。
「フォルト! 逃げ――!」
「――名誉ある死を」
またも銃声――その時にはもう、フォルトは窓から飛び出していた。
そのまま走る、ただ走る。ただただ、何も考えずに信用できる人の下へと。
そう、何も考えずに……。
「逃亡は反逆罪だ。大人しく降伏しろ」
背後から掛かる騎士の警告。
――反逆罪だってッ?
どっちにしろ殺されるのに、反逆も罪もねえだろ!
フォルトは警告に苛立ちを覚えながらも、走った。
父と母の事は悲しいが、今は自分が大事だと思ったから――。
最初のコメントを投稿しよう!