粛正

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 ――事の発端は、なんとも単純。それでいて、なんとも非現実的。  フォルトの家に、数人の騎士がやってきた。  その騎士は軽装備で、胸当てと肩当てしかしておらず背後にいた者達は甲冑。  その肩当てには、もはや誰も知らぬ者がない紋章――盾が剣に貫かれている、力を誇示したような紋章は、王立騎士軍……。 「リーゲインス家だな?」 「そ、そうですが……」  その言葉が、父の最後の言葉だった。  ――銃声。  ――崩れ落ちる父。  ――泣き叫ぶ母。  ――銃を構え無表情なまま直立不動の騎士。  次に告げられた言葉に、世界は色と音を失った。 「貴様等は王の判断により破棄が決定した」 「な、何故ですか!」  母が父に縋り付きながら叫ぶ。  ……なに、これ?  頭がついていかない。現実を受け入れられない。  だって、おかしいよ。  突然、人の家にやってきて、休日だって言うのに、人の父親に鉛玉をぶち込むなんて……有り得ないだろ? 「貴様等家族には不適切な発言及び行動が見られた。解らぬのならば自らその胸に聞くがいい」 「そんな、わ、私達は何も……ッ!」  騎士が銃口を母に突き付ける。  右手に構えられた銃。左手は偉そうに腰の後ろ……騎士は無表情なまま言い放つ。 「貴様等は粛正に選ばれた。貴様等の死は少なからず世界を洗い、世界はまた一歩正しい形に近付く」  ――粛正。  それを聞けば、母もフォルトも状況が理解できた。  一気に顔が青ざめ、寒気まで襲ってくる。  何故? 何故、家が選ばれた? 国に目をつけられないようにしてきたつもりなのに。 「フォルト! 逃げ――!」 「――名誉ある死を」  またも銃声――その時にはもう、フォルトは窓から飛び出していた。  そのまま走る、ただ走る。ただただ、何も考えずに信用できる人の下へと。  そう、何も考えずに……。 「逃亡は反逆罪だ。大人しく降伏しろ」  背後から掛かる騎士の警告。  ――反逆罪だってッ?  どっちにしろ殺されるのに、反逆も罪もねえだろ!  フォルトは警告に苛立ちを覚えながらも、走った。  父と母の事は悲しいが、今は自分が大事だと思ったから――。
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