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――所構わず響く銃声と悲鳴。
逃げる者は拳銃により命を絶たれ、放心している者は銀に煌めく白刃が命を狩ってゆく。
聞こえる声はどれもが絶叫で、誰もが絶望の物語を味わっている。
そして、リギトも物語の中にいた。
「親父! 何してんだよ、早く!」
「いい! お前達は先に行け!」
父はそう言って、壁に掛けてあった猟銃を手に取る。
「馬鹿、敵うわけねえだろ! 王立騎士軍なん――!」
リギトの怒声は、父が投げたものによって遮られた。
それを受け取り、立ち尽くす。
「な、剣なんて……なんで……」
そんなものを家の中で見た事などなかった。一体どこから出してきたんだ?
「リギト、お前は俺達の息子だ、やられやしねえよ」
「何言ってんだよ! 早くしろって、お袋だって待ってんだ!」
父は振り向いて、不敵に笑った。
「俺と母さんは元々、小さな傭兵団にいてなぁ……自慢じゃないが、そこそこ強かったんだぜ?」
「はぁ? 何言ってんだよ」
父から聞いた話では、親子に渡って鉱夫をしており鉱山が機能しなくなってからは父は猟師をしていたと聞いている。
傭兵だなんて聞いた事もない。
「お前には教えてやれなかったが……センスがいい。なんとかなるだろ」
「な、何言ってんだ親父……っ」
「母さん任せた!」
笑って言うと、父は阿鼻叫喚となってしまった大通りに飛び出して行った。
「…………!」
リギトは剣を握り締めた。何故だか、追えない。
多くの言葉を交わした訳でもない。嘘を教えられたのを、今明かされただけ。
でも、父の笑った顔が――全てを語っていたようで、悲しくて。
それでも、全てを任された気がして……嬉しくて。
リギトは父に背を向けて母の下へと走り出した。
粛正だって……?
ふざけるな。こんなクソみたいな法律、誰が黙って従うかよ。
「やってやるぜ……任せとけ、親父!」
絶望の中で、決して消える事のない希望が生まれた気がした。
剣を左腰のベルトに無理矢理通し、剣を抜く。
使った事はないが、父の言葉を信じるしかない。
今は――やらなきゃ虚しく死んでいくだけだ。
リギトは母の所へ向かった。
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