粛正

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「お袋!」 「リギト! お父さんはっ?」  待っていた母と合流し、腕を引いて走り出す。  大通りは駄目だ、直ぐに捕まる。今日剣を握ったばかりの素人が勝てる訳がない。 「親父は時間を稼いでる、今の内に俺達だけでも逃げるんだ!」 「……そう」  そう悟ったように言った母の視線は、リギトの腰にある剣を見ていた……。  ルナは怯えながら、息を殺していた。  父と母は、死んだ。  今――殺された。  自分をベッドの下に隠し、殺されてもなお娘を守ろうと自らの遺体でベッドの下を隠すようにして――。  やだ、嫌だ、なんで? なんでお父さんとお母さんが転がってるの? なんで床が赤いの? 何が起きてるの?  思考は錯乱しつつも、息を殺していなければ、と思った。  物音を立てるな、と言われたから――。  家の外からは様々な悲鳴と銃声が聞こえる。  ルナは、両親が命をかけて作った隠れ場所でじっとしている他なかった。  フォルトの隠れているクローゼットに手が掛かる……。 (もう……無理だ……!)  フォルトが意を決して飛び出そうとした時だった。 「失礼します!」  突然詰め所に入ってきた衛兵の声がかかり、騎士は不機嫌そうに振り返る。 「なんだ……?」 「なんだ? じゃないッスよ。あんたの部下が何故か同僚を殺して回ってんスけど?」 (ワイズッ?)  そう、それは間違いなくワイズだった。  ワイズは血で汚れた服を摘んで気の抜けた様子で言う。 「だからね? 殺しましたよ? 襲ってきた奴。これ正当防衛ッスよね?」 「何……?」  騎士は眉を潜める。  たかが衛兵が自分の部下を殺した……こんな一般兵が、我が精鋭を? 「で、だ……」  ワイズはへらへらと笑いながら、剣を抜いた。  スラァ……ッ、と白刃が鞘から顔を出す。 「どうせ街はもう地獄みたいなもんだ」  言って、まだ笑ったままに騎士に剣を向ける。そして、より一層――笑みを濃くした。 「地獄に上司も部下もねえよなあッ? ぶっ殺してやんぜ、この外道ッ!」  火花が互いの顔を照らす。  間合いを詰めたのは瞬間で――切り結んだのは、一瞬。 「反逆者が……!」 「地獄に王なんて居やしねえんだよッ!」  激しい剣劇が、始まった。
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