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――地獄は続いてゆく。
終わりなど見えそうにもなく……それはそうだ。
街の者が全て死ぬまで、これは続くのだから……。
ワイズと騎士の剣が噛み合い、ぎりぎりと力比べになる。
(こりゃ、見事に勝利とはいかなさそうだな……)
相手は確かに中々の強者で戦闘に関しては自信があったワイズでも少し焦っていた。
「フォルト! 聞こえてるかッ!」
隠れているというのに名前を呼ばれ、びくりとフォルトは体を震わせる。
「隠れてんのはもう無理だ、俺が押さえてるうちに早く行けえッ!」
その言葉に、直ぐには動けなかった。
こんな状況で飛び出したって、たかが知れてる。
外じゃ銃声も聞こえるし、自分が出てったって背中を撃たれてお終いじゃないのか?
恐怖は常に付き纏い、逃げる好機ですらも見逃してしまう。
機転の利く者ならば、今のフォルトの状況からは抜け出す筈である。
身を隠す、というのは一見安全そうに思えるが……それは思い違いだ。
身を隠すという行為は上手くいけば助かり、下手をすれば見付かった時には逃げ場がなくなる、という賭けにも近い。
ワイズはそれを知っていた。自分がフォルトをそこに追いやってしまった事も自覚していた。
隠し通せる、と思ったが……まさか街全てが戦場になるとは思っても見なかったのだ。
だから、フォルトを逃がさなければならない。
まだ他にも守るべき住民がいて、彼等は抵抗も出来ないまま逃げ回っているのだ。
だから、ワイズは急ぐ。
まともに住民を守れるのは自分一人だけ。
同僚達は恐らく、騎士には逆らわない。
「グズグズすんな、行けえ! そこに居たって殺されるだけだッ!」
「――――!」
クローゼットの扉を勢いよく蹴り上げフォルトが恐怖に塗り潰された顔を出した。
「本当に居たか……」
騎士がワイズから離れて間合いを取り、銃に手を掛けて――
「戦闘中は余所見禁止ッスよ!」
騎士すら反応できない俊敏さで間合いを詰めたワイズに、その銃を剣で弾き飛ばされる。
「貴様……!」
騎士と剣を絡めながら、ワイズは足元に落ちた銃をフォルトの方に蹴り飛ばした。
「持ってけ、フォルト! 騎士を見掛けたら躊躇わず撃て!」
フォルトは一瞬戸惑うが、直ぐに拳銃を拾う。
「――ごめん、ワイズ!」
ワイズが笑ってやると、フォルトは飛び出して行った。
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