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畜生、畜生……! なんでこんな目に遭うんだ、何か悪い事したか?
平凡に暮らしてきた筈だ、犯罪なんて犯してない。不適切な発言や行為なんて身に覚えがない。
国ってなんなんだよ。民を守るもんじゃないのか? 住民なんて結局、国に取っては消耗品みたいなもんなのか?
畜生……!
誰にも見付からないように裏通りを走りながら、フォルトは歯を噛み締めていた。
国に対する憤りは確かに大きいが、自分に対する憤りも確かにある。
母と父が殺され、ワイズを置き去りにして、自分だけが助かろうと必死に逃げて……。
そんな自分が、やけに醜いと思えた。
そんな風に思っていると、見知った家が見えてくる。
「…………」
その家を見て、足が止まる。
呼吸は乱れているし、思考もまだ定まらない。
でも確かに、冷静さは少し戻ってきた。
「――――!」
まずい。
嫌な光景が頭に過ぎる。
自分の事ばかりで何も考えていなかった。
友人や、仲の良かった叔父さんや叔母さんは……今、どんな目に遭ってるんだ?
フォルトは街では悪ガキの部類で、よく悪戯をしては色んな人に怒られてはいたが、その反面有名だったし可愛がられてもいた。
仲のいい人なんて、いくらでも居る。
雑貨屋のおっさんに、果物屋のおばさんに、よくお茶に誘ってくれた婆ちゃんに、いつも怒って若者顔負けに走って追ってきた爺さんに……。
「くそ……!」
自分の事だけで頭がいっぱいだった。
何を考えてるんだ、俺は?
俺だけが怯えてる訳じゃないのに、むしろ俺が隠れた為に全員にとばっちりがいっているのに。
フォルトは首を振って恐怖を紛らわすと、目の前の家に銃を構えて入った。
そこには中年男性と中年女性の死体。
ベッドにもたれ掛かるようにして事切れている。
「おじさん、おばさん……! 畜生ッ!」
床を殴ったって何も解決しない。生き返るなら何度だって床を殴ってやるが、そんな事は有り得ない。
フォルトは血がつくのも構わずに二人を抱き上げてベッドの上に寝かせた。
「ごめん」
横たわった二人に告げる。
いつもの、悪戯を咎められた時のように、しかしそれよりも、重く――。
俺の、せいだ……!
少年の拳は白くなるまで握り締められ、震えていた――。
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