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仏壇に歯ブラシ
歯周病の原因である、歯と歯茎の間の歯垢。
この歯垢が、ガチガチに固まった歯石となり、歯垢がますます付着しやすい、歯周病菌の盛り場と化します。
5年も歯医者に行かず、まともな歯磨きを行って来なかった私の口中は、ロッククライミングが出来るほどの歯石の観光名所を構築していたのだと思います。
歯周病の基本的な治療である、スケーリング、いわゆる歯石の除去作業を早速受けることとなりました。
轟音をたてるチューブで、掃除機のように唾液を吸い取りながら、歯科衛生士のお姉さんは機械で歯石を削っていきます。
まるで虫歯の治療のようです。
これでもかというほど高音のキーンといううなりをたてて、太い針のような金属が先端についた機械を衛生士は握りしめ、ゴリゴリ歯石を削っていきます。
毎日出血する、私の歯茎にとって、それは拷問でした。
痛いのです。
健康な歯茎なら、たいして痛みはないスケーリング。
この痛みも私に、病の重さを告げていました。
だが、それはプロローグに過ぎませんでした。
楽しみはこれからというように、歯周病の悪夢は続きます。
苦しそうに歪んだ私の顔を見兼ねたのか、衛生士は手を止め、
「口をゆすいで下さい」
と言いました。
ゆっくりと倒されたシートが起こされます。
いよいよ悪夢の幕開けです。
金属のコップに自動的に水がくまれ、私はそれを手にとり、白い陶器の流しに吐き出します。
私は目を疑いました。
白い陶器におびただしい血が水と共にうねりながら、排水口へ流れていきます。
それは歯ブラシの出血の比ではありません。
血が、水と手を取り合って、仲良く流れていきます。
私の歯茎は声にならぬ声で悲鳴をあげていたのです。
助けて、と。
私は初めて、歯茎の声を聞いた気がしました。
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