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東京に向かう列車に乗ってオレ等がはじめて降り立ったのは、桜咲く上野駅であった。
もう24時を過ぎているというのに、そこには人があふれていた。オレ等の村の人口より多いのではないだろうか?
「やっぱ東京ってすげーな」
オレがそういうと唯もうなずいた。が、少しするとまたうつむいて
「ごめんね」
と、瞳を潤ませた。
「なぁ、オレ等も花見しようぜ!」
唯はまだうつむいている。
「大丈夫だって!なんとかなる!!!」
オレは力強くいった。もともとノー天気な性格もあるのだが、オレはやれる気がしていた。それは、悪友達から援助があったことも大きな要因のひとつであった…。
役場から駅までバスで二十分はかかる。そこから東京に行く特急の連絡に三十分。あの時、現場に居合わせた悪友達は仲間をつのりカンパを集めてくれていたのだった。そして、車で先回りして東京へむかう特急の駅まで見送りにきてくれていたのだ。
「…健一、少ないけどよー持ってけよ」
「みんな・・」
オレは恥じらいもなく泣いた。
「なんだよ、みっともねぇよ。仲間じゃねぇか俺達。正直かっこよかったぜ!大体あの野郎達には腹立ってたんだ。すっきりしたよ。唯ちゃんもさぁ、何ていってよいのかわかんねぇけど、おやじさんひでぇよ。俺達はみんな唯ちゃんの味方だからよ、まぁ健一が何とかしてくれるだろうから、仕合わせになんなよ」
唯は泣き崩れ
「みんな、ごめんね。ごめんね」
と、何度も繰り返した。
オレ等の村は、今時の東京の人には理解できないような古い習慣やしきたりがある。血縁がどーだの、神主さまのお言葉がどーだの。みんな多かれ少なかれ、村のそういった古いしがらみを背負わされている。都会への憧れはオレだけのモノじゃない。みんなここから出たいけど、それが出来ない事情があるのだ。だからこそ、オレ等の行動は仲間達に支持されたのだと思う。もしオレが逆の立場としても同じことをしただろう。
プラットホームにアナウンスがかかり、ベルが鳴り響く。
「早く乗れよ。落ち着いたら連絡よこせよ。何かあったら遠慮なくいえよ」
「あぅ×××」
言葉にならない。
そうしてる間にドアが閉まり列車は動きだした。仲間達がドアの向こういつまでも手を振ってくれていた。オレは唯の手を握り締め、胸にいえなかった『ありがとう!』を何度も刻んだ。・・
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