憧れの東京

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「相田(健一)くん、休憩に入れよ」 「はい。それで店長・・」 「唯ちゃんところだろ?具合どうだ?」  ここ(パチンコ屋)の店長はいい人だ。オレ等の事情を聞き入れてくれて、住み込みで働かせてもらっている。当初は唯も一緒に働いていたが、体調を崩してしまったのだ。昔から体が弱かったのだが心配だ。保険証がなく病院にも行けない…。  オレ等が村を出てから一年以上の月日がたっていた。一年の間に色々あった。唯のおやじさんが保険金目当てに自宅を放火。今も刑務所暮し。  オレの両親は知らぬ間に離婚しているし…。  そんなオレ等をここの店長はやさしく見守ってくれている。見た目はおっかないし小指もない。肌が異様にどす黒く口癖が「玉金が痛ぇ!」だ。  肝臓が悪いらしい。でも、もともとそういう筋の人だってこともあるのだろう。オレ等を自分の子のように扱ってくれる…。 「今日は気分いいみたいです。早く働きたいっていってます」 「無理しなくていいからって伝えてよ。そんで冷蔵庫にアイスあるから持ってけ。こんだけ暑いと今度はお前が倒れちゃうからな。ゆっくりしてこいよ」 「ありがとうございます!」  オレは必死に働いた。唯のためでもあるし、ここの店長や仕事仲間がよい人ばかりだというのもある。 「唯、これアイス店長からの差し入れ」 「ごめんね」  唯は部屋の端で体育座りをして、哀しげな目でそういった。 「何いってんだよ。アイス溶けちゃうから食おうぜ」 「でも、私のせいで健ちゃんの人生までメチャクチャに。今も私こんな体で…」 「何いってんだよ。唯がいなきゃ東京これなかったし。唯さーどう思っているか?分からないけど、オレ仕合わせだぜ」  照れずにこんなことがいえてしまう。オレは充実していた。まだまだあの頃憧れた東京暮らしには程遠いが、それとは違った喜びが日々あふれていた。 「私も、私も仕合わせだけど…」 「ならいいじゃん!待っているの退屈かもしんないけど、今は体治すことだけ考えてればいいよ」 「でも・・」 「でも、じゃないでしょ!」 「はい」  …六畳一間の部屋にはテレビとちゃぶだい、店長からいただいたゲーム、そんなもんしかなかった。でもそれで満足だった。手を伸ばせば何でも手にできたし、何より唯がそばにいた。
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