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相変わらずの不機嫌な表情のままの彼女は、背を向けて座る僕に後ろから手をまわす。
「泣いてる? 僕が?」
「違うなら良いよ」
僕の肩に置かれたニヤの額から僅かにぬくもりが伝わってくる。
本当なら正面から抱きしめたかったけれど、自制出来なくなるのが怖くて、僕は衝動をぐっとこらえてひたすらキャンパスに色を重ねていく。
「ニヤ、その絵好きだよ」
描きかけの絵を眺めていたニヤが不意に放った言葉に「君もか」と言いかけて僕は口を噤んだ。
ニヤの視線は描きかけの絵から離れ正面にむけられていた。
その先にあるのは沢山の空。
「あっちのが良いけど」
ニヤは僅かに笑みをもらすと、僕の頬に自分の頬を軽く擦り付け、部屋を出て行った。
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