6 雨と香り (前)

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僕は一日の大半をアトリエで過ごす。 単純に絵の具の匂いが落ち着くというのもあるが、仕事として絵を描いている以上、決められた時間、職場に居るのが相応しいだろうと僕は勝手に思っていた。 ずっとアトリエは一人の空間で両親は勿論、森川さんや親しい間柄の人でも決して入れることはなかったのだが。 いつの間にかニヤはそこには入り込み、勝手に居場所を作っていた。 彼女はどうやら絵が完成するまでの過程が面白いらしく、無言でずっと、筆の動きを目で追っている。 そんなときの彼女はなんだか、本当に猫じゃらしにじゃれつきたい猫みたいで僕は思わず可笑しくなってしまう。
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