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あれは十月に入って間もない頃、肌寒いが天気の良い日だった。
売り物の絵を描くことに疲れると僕はよくあてなく出かけることがあった、一週間ほど適当に宿をとって、ひたすらに空の絵を書き続ける。
その絵は誰にも見せないし誰にも売らない。
僕だけの絵であり、僕が描きたい絵だ。
海の近くに宿をとり、僕はぬけるような青空を画用紙に描き写していた。
日暮れまで描いて、ふと振り返ると、みすぼらしい服をきた、薄汚れた男の子が僕の絵をじっと見ていた。
無造作に切られた短髪に大きな少し吊った瞳。
真っ黒なその瞳の中に写し出された空に僕は思わず魅入られたのだと思う。
気がつけば僕は少年に声をかけていた。
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