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7 雨と香り (後)
傍に居ることは許してくれる、じゃれつくことも、キスをすることにも彼は何も言わない。
それでも、決して自分が入り込めない時間があって。
それが彼にとって大切な時間であることは理解しているつもりでも、やっぱり寂しくて心細い。
彼の香りの残る布団にくるまってなんとかそれを埋めようとしても、寂しさは募るばかりで。
自分の様子を見に来てくれる、女の人と彼の関係を想像しては嫉妬をして。
雑誌を開いて見れば、彼の横には綺麗な女の人がいて。
「大切な人って誰なんだよ」
思えば思うほど、心の中がグチャグチャになっていく。
傍に居れれば良いと思ったのに。
自分を拾ってくれた彼の幸せすら祈れない自分。
何て醜いんだろう。
なんて浅ましいんだろう。
消えてしまいたいと思いながら。
それでも、そこから動けない自分に憐れみを込めて笑みを送った。
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