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「…」  本棚と大きな机だけの簡素な部屋。  その空間に似つかわしくない、ツヤがある黒革の椅子にもたれ掛かり煙草をくゆらす。 「…はぁ」  カーペットなんて敷いているはずも無い板張りの床に、幾つか書類の束が置いてある。 「…だる…」  バサバサと音を立てて書類が床に置かれる、もとい落とされる。  ちょっとばかし昨日ははしゃぎ過ぎたかもしれない。体が重い。煙草を口に運ぶのも億劫だ。  先方の話によると、今日報酬を持ってくるらしい。 「あ~…早く来ねぇかな…」  金は貰いたいが、待ちたくはない。この待ち時間を利用して眠りたいのだが、この前それをやって怒られた。  帰り際に「お前の耳は素晴らしい防音機能を持っているな」とか言われた気がするが、そんなの俺の知ったことじゃない。  うだうだしながら灰皿に煙草を擦り付けていると、カランカランと小さな鐘が客人を祝福した。 「今日もちゃんと起きてたな」 「厭味は腹の足しにはならないからな」  入ってきた客人は俺にパーティの招待状と金を運んできてくれる天使だ。ヒゲ面の。 「いい加減、客用の椅子も用意したらどうだ?」 「じゃあ金渡すから今度持ってきてくれ」  ヒゲ面の天使は肩をすくめながら溜息をついて、机の上に肥えた封筒を置く。 「お目当てのものだ。大事に使えよ」 「そのセリフは聞き飽きた。だが感謝はする」  俺はまともな職には就いていない。主な仕事はこのヒゲ天使『グラッソ』が持ってきてくれる。  一応それでも足りないときの保険に「悪いことはしない何でも屋」をやっている。もちろん知名度は未確認生物並みだ。  封筒の中身を確認していると、机をコンコンと指でノックされる。 「実は話がある」 「次の仕事か?」  グラッソは答えずドアのほうへ振り返り、その向こうへと声を掛けた。  するとドアが開き、またも小さな鐘が客人を祝福する。  中に入ってきたのは── 「子供…?」  ウェーブがかかった少し長めの金色の髪をもつ少女だった。その瞳は翠色で宝石のように輝いて見える。 「紹介しよう。今日からお前のところに置いてもらう『ヴェルデ』だ」 「緑(ヴェルデ)?……ん?てか、おい、ちょっと待て。今「俺のところに置く」とか言わなかったか?」 「今日は防音機能が動いてないみたいだな」 「冗談言ってる場合か!」
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