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「……」
「……」
沈黙。
実際ここにいてもやることは無いのだ。仕事を請ける気もしないのだから、さっさと部屋に帰って寝るのが俺のいつもの日常だ。
だが。
「……」
「……」
部屋に帰って俺は寝るとして、それじゃあこの子はどうすればいい?
放っとくといっても俺をずっと見ているのだから、逆に気になって仕方ない。「見るな」と命令するのも嫌だ。
ならば、一緒に寝るか?そんな馬鹿な。俺にそんな趣味は無い。
だったら明るく話でもしてみるか?無理だ。子供を相手にしたことがない俺にそんなことは出来ない。何より…面倒だ。
「……」
「…あの」
「!?」
仏頂面で机に突っ伏していた俺に突然声が掛けられた。
「ど、どうした」
「これ…」
「ん?」
ヴェルデが差し出してきたのは、装飾が全く無い銀色の指輪だった。
「これって…」
「パドローネの証です。絶対に無くさないようにパドローネが持っていてください」
「あ、ああ…」
パドローネの証。
封筒に入っていた紙に何が書かれていたのか話しておこう。
彼女、ヴェルデはある廃墟の地下室で見つかった。彼女が安置されていた部屋は地上の廃墟っぷりと比べて、奇跡が起きたと言えるほど綺麗な状態だったそうだ。
彼女が寝かせられているベッドの傍らには、一枚のメモと一つの指輪が置かれていた。
そのメモには、彼女を創った喜びと後悔が書かれていた。
彼女を創る際に必要となった材料の中に、何か「危険なもの」を動かす「鍵」があったらしい。その「鍵」を狙ってとある組織が動いている。しかし自分は力無き錬金術師、我が娘を守ることは出来ないだろう、と。
メモの最後にはヴェルデを創った錬金術師から──
「心ある人よ。どうか我が娘、ヴェルデを頼む。あの天使を語る悪魔から守って欲しい」
そう無責任な願いが震えた字で書かれていたそうだ。
彼女を見つけたのはグラッソ本人。
そのメモを読んだアイツは「ヴェルデを守れるのはディアボロ(俺)以外にいない」と思い、指輪をこっそり拝借。様々な書物を読み漁って、とうとう契約の仕方を見付けて俺を契約させたんだそうな。
……むちゃくちゃだな。次会ったら絶対ぶん殴ろう。
とりあえず、指輪を右手の中指にはめる。
「……」
「……」
また沈黙。
仕方ない、帰るか…。
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