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俺はヴェルデを連れて事務所を後にした。
事務所から俺の住んでいる部屋はそう遠くない。
街の喧騒をBGMにヴェルデの手を引いて歩く。…犯罪者に見えたりしないだろうな。
「…!…!」
ヴェルデは通り過ぎる人をよろよろと必死に避けて歩く。そしてキョロキョロ。
何がしたいんだコイツは。
「あっ──」
突然、グラッとヴェルデが前のめりになっていく。
「おっと」
転ぶ前に抱えあげる。小さいから持ちやすい。
「気を付けろよ」
「ご、ごめんなさい…」
「家まで抱えてってやるから、ゆっくり景色でも見てろ」
また人や景色に気を取られすぎて躓(つまづ)かれても面倒だ。
抱えたまま歩きならがら、横目でヴェルデを見る。
ヴェルデは色々なものを見回している。夢中になりすぎて口が半開きだ。
もしかしてコイツ…。
「自分が創られたときの景色と違いすぎて不思議か?」
「あ…はい」
当然か。ヴェルデが起きたのはつい最近のはずだ。あのメモが書かれたときから眠っていたとすれば、錬金術が生きていた時代からコイツの時間は止まっていたということだ。
で、目を開くとそこは別世界。まるで御伽噺。いや…錬金術なんてもので創られたんだ。御伽噺そのものだったな。
「見たことのないものばかりで…少し怖いです」
「…」
未知の物にばかり囲まれている状況。違うのは自分だけ。
取り残された存在が自分一人という孤独か…俺も似たような時期があったな。
「…ん?」
気付けばヴェルデは俺のワイシャツを強く掴んでいた。
「…大丈夫だ」
「え?」
「俺はお前のパドローネだからな。これからは俺が守ってやるから、そんなに心配するな」
「あ…」
ヴェルデの顔に驚きと喜びが表れる。
「ありがとう、ございます」
「礼を言われるようなことじゃない。それと、他人行儀は無しだ。俺のことも名前で呼んでくれ」
「…うん。ありがとう、ディアボロ」
不思議な感覚だ。子供に名前を呼ばれたのなんて初めてだな。
それにしても…『悪魔』の名を冠しているとは、ご大層なもんだ。
* * * * * * * * * * * * *
家、というかアパートに着いた。
アパートと言っても、食う金にいつも困っているような奴が住むところだ。最高級にオンボロなのは言うまでも無い。きっとこれより下は無いだろう。
鍵を開けてヴェルデを中に案内する。
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