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「何も無いところだが、適当にくつろいでくれ」 「う、うん」  リビングには二人掛けの硬いソファーに、いつ故障してもおかしくない小さめのテレビ。それと中途半端な大きさのテーブルに椅子が二つ。片方の椅子はグラッソが置いていったものだ。  キッチンは特に変わったところは無いが、意味も無く大きな食器棚が一つ置いてある。もちろん中は程良くスカスカ。  残りは寝室。少し値の張るベッドの隣には小さな本棚が一つ。本棚に入ってるのは暇つぶし用に気に入った本が数冊だけ。あとは特に変わったものは無い。  …シンプルな部屋だ。  ヴェルデは少しウロウロした後、ソファーに落ち着いた。 「…気に入ったか?」 「ちょっと、硬いかも…」 「俺もそう思う」  どかりとヴェルデの隣に腰を下ろす。安物のスプリングが軋む音と共にヴェルデが僅かに跳ねた。  …しまった。テレビの電源点け忘れた。  軽く溜息を吐きながら腰を上げると、隣から「きゅるるる」と可愛らしい音が鳴った。 「ご、ごめんなさいっ…」 「いや…腹、減ったのか?」  聞くまでも無いか。  俺は返事を待たずキッチンへと向かった。 「あっ、ぱ、パドローネっ」 「ディアボロだ」「あぅぁ、ごめんなさいっ…ディアボロ、わたしのことは気にしなくていいよっ?」 「俺も腹が減ったんだ」  ヴェルデは縮こまり上目遣いで俺を見ると 「…ありがとう」  そう小さな声で礼をした。  とりあえず、パスタでも作るか。  時間はそんなに掛からない。  金を貰うわけじゃないから、テキトーに作ればいいだけ。気が楽で良い。  スパゲッティを茹でながら、少し前のことを思い出す。  あの日は珍しく何でも屋の方で仕事が入った。  簡単な調理をしてくれるだけで良いと言われて、特に深く考えることも無くついて行った。  で、着いた先はお高そうなリストランテ。何でも大事な客が来るのだが、シェフの一人が病気で来れなくなってしまったらしい。  ははは、そんなこと聞いてないって。あまりにギリギリの状況になってから言うなよ、そんな大事なこと。まぁ、今にして思えばそれだけ切羽詰まってて逃がしたくなかったんだろうな。  とにかく仕事は仕事。請けてしまったものは仕方が無い。  俺は調理に専念することにした。別に難しい調理をさせられるわけじゃないから、気後れすることも無い。  はずだった。
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