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 調理は最初に言われたとおり簡単なものばかり。客も普通に食事を始めた。が、少し食事が進んだところで突然厨房の人間が呼ばれる。俺は呼ばれなかったが。  手が空いたので様子を見てみる。すると化粧の分厚いケバケバした丸い女に俺に依頼した男が、がなられてるのが見えた。  耳をそばだてて会話の内容を聞いてみると、どれも無茶苦茶な文句ばかり。それだけならまだ良かった。  あろうことかその女、俺の作った料理にまでギャアギャアいちゃもんつけ始めたのだ。  俺だって客に出すものなんだから割と全力で頑張って作ったものをあのババアは──! 「でぃ、ディアボロッ!?」 「ん?…ああッ!!」  気付けば鍋の中のスパゲッティはグンニャリ柔らかくなっていた。というか煮立ってる?  …呪いだ。  俺達は仕方無くスライスしたニンニクと赤唐辛子を混ぜ合わせた不味いスパゲッティを食うことにした。 「…美味いか?」 「…う、うん。おいしいよっ」  懸命に笑顔を作るヴェルデ。  その健気さが逆に辛い…。  早々に不味い昼食を終わらせ、さっきと同じように二人でソファーに腰掛ける。今度はちゃんとテレビも点けた。  ヴェルデはテレビに驚いた様子は無い。もうグラッソのところで何度か観たのだろう。  特に会話も無く時間が流れていく。  不意に。 「ディアボロのこと、訊いてもいい?」  ヴェルデがどこか申し訳なさそうに口を開いた。 「どうしたんだ、突然」 「その…わたし、ディアボロのこと名前しか知らないから…」 「あー…」  これから一緒に生活していくんだから、少しは相手のこと知っておきたくなるよな。  ましてや俺はヴェルデのパドローネ。ヴェルデにしてみれは自分の命を預けてるようなものだろう。 「…そうだな、構わないぞ。何が知りたい?」 「えと、じゃあ…ディアボロは何をしてる人なの?」 「は?」 「き、聞いちゃいけなかったっ?」 「いや、そうじゃない…」  その質問は予想外だった。グラッソの奴、俺のことを何も話してなかったのか。  ヴェルデはおどおどしている。  何一つ、名前すらも知らない存在が自分の主人になる。 「あの…ディアボロ…?」  それは、俺じゃ想像もつかないぐらい不安なことだったのだろう。  創られてからほんの少しの間しか活動していない少女。目を覚ませば全てが変わっていて、勝手に契約をさせられていた。
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