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「いい、大人しくしてるのよ? 夏休みも終わりに近いんだし、午前中にきちんとお勉強しないと宿題終わら……」
「ちゃんとやるからっ。大丈夫だよ、ママさんっ!」
心配そうな顔つきの千秋が最後まで言い終わらぬうちに、二つの口からは全く同じ言葉が飛び出して重なり、千秋の小言を遮っていた。
揃って双眸をランランと輝かせ、手入れが行き届いた庭をチラチラと見ている。もう冒険を始めたくてウズウズしているといった様子だ。
その二人の容姿は、先程発した言葉と同じ様に、うりふたつ。髪に結んだリボンの色を変えてなければ、他人には見分けがつかないだろう。よく似た双子だ。
今にも駆け出しそうな、双子のその気持ちを抑えるかのように、二人の腕をしっかりと掴んでいた自分の両手を、千秋はそっと開いて開放する。
そしてそのまま右手を目の前にある呼び鈴に伸ばし、躊躇いがちに押そうとしていた時だった。
「いらっしゃい、千秋さん」
嬉々とした声を伴って呼び鈴が鳴る前に開かれた扉へと視線を移せば、千秋の目には満面の笑みを浮かべながら、自分達に歩み寄る健吾の姿が映った。
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