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  「咲ちゃん、朔ちゃん、よく来たね!」    健吾は双子のそれぞれの頭に手を軽く乗せて、柔らかい笑みで二人を迎えた。   「こんにちはっ!」  揃いの挨拶に満足気に頷いて、健吾は扉の中へと双子を導く。冒険を決め込んでいた外庭よりも気になる物が、部屋の中にはいっぱいありそうだ。   「おじゃましますっ」  二人は顔を見合わせてから健吾に向かい頭を下げると、旅館並に広い玄関エントランスの隅にきちんと靴を並べ、早々に上がり込んだ。   「健吾くん、ごめんね……千鶴が大変な時なのに。せっかくの休暇を邪魔しちゃって」    千秋は申し訳なさそうに健吾に謝っていたが、健吾は『全然邪魔じゃないですよ』と笑い飛ばした。      ここは獅子堂財閥が所有する別荘のうちの一つ、軽井沢邸宅。  世間一般の盆休みが明け、ようやく遅めの夏の休暇を取った千鶴が、姉の千秋とその双子の娘の咲と朔を呼び寄せたのには訳がある。    千鶴は現在妊娠22週目の妊婦なのだが、周囲の心配と心使いによって、この別荘に閉じ込められる形でしか休暇を過ごす事を許されなかったのだ。
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