蝉の啼く丘

１

　
　退屈凌ぎと言っては悪いが、それを理由の大半にして千秋を呼ぼうと千鶴が思い付いたのは、別荘に来て３日目の事だった。

「無理ー！　仕事だよ私」

　電話口の向こうから千秋が寄越した返事はＮＯ。世間と同じ様にして盆休みを取った直後で、さすがに再び長期に休暇をとるわけにはいかないのだそうだ。
　この話はお流れになるな……と思った千鶴が、つまらなそうに唇を尖らせる。

　その時、電話口の向こうから姪っ子二人の『わたし、行きたい！　学童もプールも飽きたもんっ。退屈だもんっ』と言う息のぴったり揃った声が、千鶴の耳に届いた。

　そこから話はとんとん拍子に進み、千秋は双子を別荘に預ける事になっていったのだ。

「千秋さん、俺がちゃんと面倒見るから大丈夫だよ」

　健吾は不安げな千秋に、片目を閉じてウィンクを投げる。

「でも、千鶴のお腹に障るような事があったらすぐに連絡ちょうだいね？　連れ戻しに来るから……って、千鶴は？」

　正面の階段の上へと駆け出した咲と朔の姿を目で追いながら、千秋は視線の先に千鶴の姿を探した。