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「はい、御主人」
一礼して車へと乗り込もうとした真帆と扶の一連の動作を、ボーッと眺めていた千秋は、スーツの胸ポケットで無機質な音を立て始めた携帯のアラームに、ハッと我に帰った。
「ごめん、もう戻らないと!」
「秋姉、もう行くのか?」
「半日しか休めなかったのよ、ごめんね千鶴」
残念そうな千鶴に手短かに事情を話すと、千秋は詫びを入れる。千鶴は直ぐさま扶を呼びとめて、千秋を送る様に告げた。
「本当に大丈夫かしら」
二階に姿をくらませたままの双子を気にしつつ、後部座席に乗り込んだ千秋に、健吾は胸を叩いて誇らしげに請け負う。
「大丈夫、千鶴さんも二人も、俺がちゃんと護りますから!」
まだ高校生だというのに、一児の父となるその責任感が滲む、誇りと自信に満ちた精悍な健吾の顔に、千秋は安堵して双子を預ける。
「じゃあ、お願いしますっ。もう戻りの電車がきちゃうから、行くね! 千鶴……土曜日に迎えに来る時は、ゆっくり出来るから、また話そう」
車の窓から身を乗り出して、そっと優しくお腹を撫でてくる千秋に、『ああ。待ってる』と静かに千鶴は微笑み、車を出すように扶に告げた。
とんぼ返りに別荘を後にした千秋は、何とか取れた半日休暇の時間内に、別荘と地元を往復する事に気を取られて……その後、娘達がとんでもない事件を引き起こすなんて、思いもよらずにいた。
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