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「あぅ……まずいなぁー…」
大きな樹を背中に青年は空を仰いだ。
既に辺りは薄暗く、心細い心情に拍車をかけるように夕陽が山に傾いていく。
「…っ、…」
背中を預けていた樹から体を起こそうとして、青年は顔を歪めた。
見下ろす視線には赤く腫れ上がった足首。
森の茂みに足を取られて捻っていた。
「こんなところにいたらまずいのにぃ…」
そう呟いてみても、足が痛んで歩けそうもない。
大きな溜め息が漏れる。
一人で出掛けたのがまずいけなかったのだ。
頭の中で自分の浅慮を責める。
あまりの自己嫌悪に吐き気まで這上がってきた。
彼は『陽族』だ。
陽族の支配は夕方まで。
夜になれば陽族と相入れないもう一つの一族、『夜族』が支配する。
こんなところに蹲っているのはまずい。
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