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そう思うが痛む足ではやはり歩けそうもない。
「…、…」
ならせめて身を隠そうと、半ば這うように移動を始めた。
夜。
樹の上を飛ぶように伝う青年が不意に足を止めた。
一瞬、感じた事のない匂いが鼻先をかすめた。
甘い、蜜のような匂い。
「……?」
不思議に思い、暗い辺りを見回す。
だが樹の上に匂いがしそうな物は見当たらない。
「下か?」
口の中で小さく呟き、彼は枝から飛び降りた。
物音も立てずに地上へと降り立ち、慎重に匂いを探す。
森の最奥にある大樹の前で、彼はそれを見つけた。
「……陽族…?」
大樹の幹の窪みにすっぽりと収まっている青年に、彼の視線は釘付けになった。
ただ、呆然と立ち尽くす。
そんな事に全く気付いた様子もなく、窪みに収まった青年が小さくみじろいた。
「…すんげぇ神経だなぁ、こいつ…」
ある意味尊敬出来る。
陽族が夜、外にいるのに。
しかも……寝ている。
自分なら昼に外で眠れないだろうと考えていた。
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