始まり

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    放って行ければ楽だろう。     だが族長候補は選出されるだけでも栄誉な事だ。 その自分が、族長候補である自分が、陽族とはいえ同じ族長候補を放っておける訳がない。     だが、やはり面倒臭い。     というか彼は先程からあまり頭が働いていなかった。 匂いが、鼻から頭を麻痺させていた。 あの甘い蜜のような匂い。   「何なんだよ…この匂い…」 頭だけでなく、少しずつ手足まで痺れてきた。 たまらずに膝を折り倒れるように座り込む。   「……良かったぁ。君にもちゃんと効くんだね」   のんびりと間伸びした声が静かな薄闇に響いた。 緩慢に頭を上げると、眠っていた筈の青年がにっこりと笑っていた。 その薄い色の瞳を細め、座り込んでいる青年を見つめる。 「僕、夕方に足をくじいて歩けなかったんだ」 「…おぉ」 「でもすぐ夜になるから、ここで寝て帰る事にしたの」 「……、…」 「さすがにそのまま寝てたら危ないかなぁと思って、これ、塗ってたんだ」 相変わらず笑みを浮かべたまま、腰の巾着から小さな小瓶を取り出す。 薄い桃色の細かい粉末が入っているようだ。  
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