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あの小瓶の粉末。
間違いなく『眠り薬』だろう。
だが陽族であるキチェは夜だと殆んど力が出ない。
大体、昼にイェンを眠らせても一回り体格の小さいキチェに運ぶのは無理だ。
「……」
ふと思い当たった事に、イェンは顔を上げキチェを睨んだ。
「…つか、運ぶってどこにだよ」
…まさか連れ帰るつもりなのだろうか?
怪訝な眼差しを向けるとキチェはまたにっこりと笑った。
「ここ」
「…」
そう指差したのは大樹の根本。
先程までキチェが眠っていた、あの窪みが指し示す先にあった。
「…、…」
何とも滑稽だ。
キチェ相手に、心配するだけ無駄だったようだ。
そう思い至って深く息を吐き出す。
……何だかどっと疲れた。
にっこりと笑ったキチェが窪みに入り込み、肩越しにイェンを手招く。
「こっちおいでよ」
「…お前なぁ…」
きっともう忘れているのだろう。
…痺れ薬が効いている事を。
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