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「わしは…猿夜叉丸様に人質に行ってもらおうと思う。」
家臣がざわめく。
筆頭家老の口から出たのは自分達の意見とは違うかったからである。
それだけ清綱の言葉は重いのだ。
「まず、2倍以上の兵を有する六角に今の浅井家が勝てるとは思わぬ。例え勝ったとしても大きな損害が出るだろう。
それでは六角家は滅ぼせぬ。
この度戦うなら目的は六角家を滅亡させることの他にはないはずだ。
それに…
猿夜叉丸様のご希望でもあるのだ。」
清綱は思い出していた。
つい先刻、堂々と持論を述べた素晴らしい素質を持った猿夜叉丸の言葉を。
それを皆に伝えるために。
「猿夜叉丸様は自ら六角家に行くと。
猿夜叉丸様の願いは小谷の平和である。若君の気持ちを無駄にするには忍びないだろう。」
……
静寂が流れる。
皆、清綱の言葉と猿夜叉丸の望みをかみしめている。
なかには泣いている者もいた。
清綱も同じであった。
わずか8歳の少年が家中を動かすなど他の家では有り得ないことだ。
やはり猿夜叉丸には大名としてのすばらしい素質があるのだと。
「皆、猿夜叉丸様に六角家に人質に行ってもらう。それでよいか?」
一同は平伏した。
これで浅井家のとる行動は決まった。
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