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まだ私が幼稚園に入る前なので三~四歳の頃の話である。
その当時は、居間で家族四人で川の字に寝ていたのだが、その日は、父は仕事で遅く、まだ帰って来れず、母は、いつもは家にいるにも関わらず、出掛けており、私と姉は先に寝る事になった。
居間の電気を着けたままで寝れる体質ではなかったし、暗いままで寝るのは怖かった為、居間の電気は消して、キッチンの電気は付けたままにして、居間のドアを半開きにして、光を取り入れる様にしてから横になる事にした。
姉は、寝る時は、いつもは母親が側にいないと落ち着かず、泣いてしまい、寝付きが悪いのだが、その日に限って不思議とすぐにぐっすりと寝てしまっていた。
私はというと、やはり親が側にいない為、落ち着かず、寝付けない為、暗い天井を見つめて、両親が帰ってくるか、眠気が来るのを待っていた。
ボーっと天井を眺めていると、何か微かに音が聞こえてくる。
「何の音だろう?どこから音がするのだろう?」
と思い、周りを見渡し、耳を傾けた。
すると私は、何かに誘われる様に、襖の前に座っていた。
襖の奥の押し入れの中から微かに音がしているのがわかった。
襖に耳を近づけてみる事にした。
始めは、単調な音だと思っていたが、次第に曲としてのリズムがある事がわかり、最終的には女性が歌う声だと感じた。
「あ~あ~あ~あ~あ~ああああ~♪」
と女性の滑らかくキーの高い美しい歌声なのである。
音符で言えば、
「ミ~レ~ド~シ~ラ~ソシドラ~」
っと言った所だろうか。
その部分だけが繰り返し流れているのである。
私は、その滑らかで美しい歌声に耳を傾けて聴き惚れていた。
すると突然、フッと歌声が止んだ。
「どうしたんだろう?」
と思い、襖に耳をかなり近付けていた。
その瞬間、私の耳を目掛けた様に、
「ブスッ」
っと押し入れの奥からボールペンの先の様な物が私の耳をスレスレで襖を貫通していたのである。
私が驚く隙も与えず、そのペンの先のような物体は、すぐ様引っ込んだ。
私は、恐怖と言うよりは
「何が起きたのだろう…」
っとただ呆然とするしかなかった。
そして我を取り戻すと、無謀にも真実を確かめようとし、襖を開けた…。
すると…。
押し入れの中は、アイロンや裁縫道具、薬箱、ミシンなど日用品しか置いてあるだけで、ましてや音がするような、オルゴールやラジオ、カセットデッキすら無かった。
当然、誰かが入れる余地はない。
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