散々にざんざん

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俺のため息は人を不幸にさせる。 人だけじゃない。 植物なんてすぐ枯れる。青空なんてすぐくもる。河川なんてすぐにごる。自動販売機では缶がでない。炭酸なんてすぐ気がぬける。アスファルトには花も咲かない。スパムメールがとまらない。 俺のため息は不幸を呼ぶ。 俺は、サラリーマン。札幌にある商社で働く23歳。会社での呼ばれは、「こけしバイブレーション」。意味はわからないが、名前で呼ばれた方が早いと思う。取引先のお客さんからも、そのあだ名で呼ばれている。 自分のデスクには穴があいている。ため息をするたびにその穴は少しずつ溶けて広がっていく。俺はそのデスクにいつも別の板をのせて使っている。上司は別のデスクを用意してくれてはいるが、また穴があいては申し訳ないので、のせた板が溶け出したら別の板を取り替えて使用している。社内には、替えの板を十数枚用意している。急に溶け出しても安心である。 ため息で形を変えたのはデスクだけじゃない。俺が使うコーヒーカップもペンも時計もパソコンも、デスク近くにある物はほとんど形を変えて存在している(ほぼ原型をとどめていない)。 近くにある物で、唯一ため息を浴びても溶けずに形を維持している物がある。 とあるスープカレー屋でいただいた、黄金のガネーシャの像だ。成人男性の肘から指先くらいまでの大きさで、すごく重い。いくらため息をはいても形を変えることはなく、表面のホコリや指紋やサビが一瞬「ジュワ」っと溶けて終わるだけ。そのせいでいつも光り輝きチカチカして目が痛いのである。
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