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地平線まで続く淡緑の絨毯。
なだらかな起伏の丘の上には所々突き出た岩があり、辺りには木も数える程しか見当たらない。
グレアス帝国の首都から西に広がるラルダ平原。
背の低い草は吹き抜ける風に揺られまるで波面のようだ。
その中に延びる一本の街道。
石をレンガのように敷き詰めた街道には石の隙間から鮮やかな野花達が顔を覗かせている。
しかし妙なことに街道と脇に淡緑色の雑草と混ざり黒い物が一緒に風に靡いていた。
よく見るとそれは人の髪であり、その黒髪の持ち主は街道を遮るように道の真ん中で横たわっている。
年はまだ十代中頃だろうか・・・・
まだあどけなさが残る端正な顔立ちと黒髪にさえる白い肌は土で汚れ所々擦り切れ血が滲んでいた。
女性のように長い睫毛に飾られた瞼は開かれることなく閉ざされている。
ガラガラガラガラ・・・・
その時、街道の石畳みの上を進む沢山の馬のヒズメと馬車の滑車の音が少年の元へと近づいてきた。
やがて馬のヒズメの音と馬車の音が少年の手前でぴたりと止む。
「ちっ!なんでぇ?こんなとこにガキが倒れてやがる!」
馬車を先導している柄の悪そうな男が面倒くさそうに吐き捨て馬から降りた。
「おい、どうした?」
男の後ろにある無数の馬車の中でも一際大きな馬車からよく肥えた腹を突き出した中年の男が現れる。
「あ・・・・あぁ旦那。見てくだせぇよ、こんな辺鄙な道でガキが寝てやがる。まったく困ったもんでさぁ・・・・」
柄の悪い男は呆れたように呟く。
しかし中年の男は少年に歩み寄ると口元に手を当てた。
「ふむ・・・・まだ息はあるな。よし、そこのお前、この子供を奴隷馬車に放り込んどけ」
その言葉に柄の悪そうな男は耳を疑った。
「だ・・・・旦那。まさかこのガキを拾うつもりですかい?」
彼がそう言うと中年の男はニヤリと口を歪ませる。
「ワシらは商人だ。売れる物は一つでも多いほうがいいだろう?
それに見ろ、黒髪とは珍しい。」
中年の男は少年の髪を掴みながらそう言った。
確かに汚れでくすんではいるが、少年の髪は珍しい黒髪をしている。
(旦那もがめついねぇ・・・・)
柄の悪そうな男は少年に少し同情しつつ言われた通り鉄格子と鉄板で覆われた奴隷専用の馬車に少年を乱暴に投げいれる。
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