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実際、まだ肌寒い初春の、こんな時間に真夏の装いで微笑む女性に『私死んじゃってるっぽい』とか言われて、『そうなんですか大変ですね』などと答えられる方がどうかしているのじゃないかと、こっそり考えてしまう。
俺、疲れてるのかな……。
仕事しすぎたか……?
なんだか、どっと疲れを感じた俺に彼女は笑いかけた。そして、どこか寂しそうな顔で、「私もよくわからないのよ」とつぶやいた。
そっと、彼女は大きな桜の木を見上げている。
「気がつくと、いつも、ここに、こうしているの」
ここ、とはこの桜の木をさすのだろう。この桜の木の下に、わけもわからずいつのまにか彼女は立っている……しかも、いつも。
そう言うのだ、この子は。
そんなことが実際にあるのだろうか。
いやいや!
あるわけない。
警察に連れていったほうがいいのか……いや病院?
そんなことを考えながらとりあえず口を開く。
「えっと……どのくらい前からこういうことになってるの?」
その声に彼女は視線を彼に戻す。
「ん~、結構前」
「結構……?」
その漠然とした答えに、やはり返す言葉をなくした俺に、彼女は笑顔で続けた。
「でも、ここで誰かに会ったのは、お兄さんが初めてだよ」
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