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「……家に帰ったほうがいいと思うんだけど……もう0時回ってるよ?」
腕時計を指さし、俺はあきれながら続けた。
「そうなんだ! どうりで真っ暗!」
真っ暗って……。
なんだか、彼女の適当な返事に苛立ちを覚えた。
「とにかく、女の子がこんな外灯もないような真っ暗なところに一人でいるもんじゃない。帰りなよ」
そう俺が言うと、彼女は一瞬、目を伏せた。
ほんとに、一瞬だった。
「そうしたいんだけどさ……」
すぐに笑顔に戻り、そして、彼女は言ってのけたのだ。
「私、何でここにいるかもわからないの。いつも気がつくとここにいるの」
……今なんて?
思考回路は、本日何度目かの混線状態であった。
彼女のその口から出てきた言葉は、その笑顔とは不釣合いすぎて、素直に頭の中に言葉が入ってこない気がした。
むしろ、日本語?
などと思ってしまう。
何でここにいるかわからないって……心の病気かなにかなのか!?
言葉の出ない俺には一切ふれずに、彼女は大きな桜の木を見上げながら、感慨深げに続ける。
「でも……この桜の木だけは覚えてるのよね。なんか懐かしいんだ、すごく……すごく……なんでだろう?」
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