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お嬢さんと奥さんのいない家は、静かだった。
俺と野分…二人だけ。
長い付き合いではあるが、二人きりということは珍しいので、
少し変な心持ちがした。
「ヒロさん」
野分が部屋に入ってきた。
何かと思ったら、俺達の昔話を話してきた。
俺と野分は幼馴染。
俺が東京に出て、文学を勉強すると野分に伝えると、野分も東京にでたいと言い出してきかなかった。
俺には別に止める理由もなかったので、一緒に上京することにした。
親も、野分には信頼を置いているようで、この家にも野分となら、と俺を送り出したのだった。
「そういえば、ヒロさん実家にご連絡してますか?」
「ん?してねぇ」
「ダメですよちゃんとしなきゃ。俺のとこに電話きましたよ」
「はぁ?なんでお前んとこに」
「お母様、相変わらず面白い方ですね」
「あのババァ、何話したんだよ」
そんな他愛もない話をしていた。
ふと野分を見ると、少し緊張している面持ちだった。
「どうした?つかお前が昔の話持ちかけてくんのって珍しいよな」
「…あ……あの、俺、ヒロさんに言いたいことがあって」
「ん?」
何気なく、本当に何も考えずにそれを聞いた。
そのことに後悔するなんて、思いもしなかった。
「……俺、…俺…」
「どうしたんだよ」
野分は、真っ直ぐに俺を見た。
その黒い瞳は、俺を全て包み込むようで…少し怖かった。
唇をゆっくりと開き、野分ははっきりと言った。
「俺、ヒロさんが好きなんです」
「…は………?」
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