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ようやく野分の話が終わった。
それと同時に、静寂。
「……」
「………」
嫌な沈黙が続く。
静寂を破ったのは下女の声だった。
食事ができた、と。
俺は野分に視線をやらず、黙って居間へ向かった。
その日の昼飯は、いつにない不味いものだった。
「……」
「……あ、ヒロさん……醤油使いますか?」
「……あぁ…」
醤油を受け取った手が、少し野分の指に触れて
手を引っ込めてしまった。
畳にじわじわと黒いシミが滲み込んでいった。
それを下女が忙しなく拭き始めた。
なんで俺はこんなに動揺しているのだろうか。
昼食の後、二人はめいめいの部屋に引き取ったきり顔を合せなかった。
野分は自室で静かにしているようだったが
俺は落ち着かなかった。
隣の部屋に野分が居るというだけで、
鼓動が早まった気がした。
野分はきっと俺の返事を待ってる。
でも、俺はどう返事を返せばいいか分からなかった。
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