会いたい人

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「山崎のそっくりさん…」 「麟ちゃん!?」 女中兼監察方にして、土方の恋人…山崎歩(あゆむ)。 突然の彼女の登場に、土方は前にも増して頭を抱えた。 人情厚い歩が行き場を無くした少女を擁護する事は分かりきっていたからだ。 そして麟も薄々それに気づいているのだろう、土方ににやりと笑って見せた。 「何でこんなとこに居るん?」 「行くとこ無くてなあ…?何でもするから雇ってくれ言うて土方はんに頼んどるんやけど…そう甘くはないみたいやなぁ」 哀れっぽい声を出してちらりと歩を盗み見る麟。 そんな話は聞いていない、と土方は胸中で悪態をついた。 「とーしー?」 歩の冷たい視線が突き刺さる。 土方はキセルをくわえたまま目を泳がせた。 「仕方ねえだろ…、鴉だぞ?」 「昔の話やろ。京の安全を守る天下の新撰組が、女の子一人助けてやれんの?」 苦渋の弁解も歩の前では風の前の塵に同じ。 腰に手を当て子供を叱りつけるような歩に、土方はついに白旗を上げた。 …深いため息と共に。 「もう好きにしやがれ…」 その言葉には、もうどうにでもなれという響きも含まれていたのだけれど、二人がそれに気づくことはなかった。 「それでこそ歳やわぁ!」 歩が上機嫌に土方の背を叩く。 しかし麟は何か違和感を感じ、首を傾げた。 「歩はんは何で土方はんの事、『歳』って呼んでるん?」 言うまでもなくそれは二人が恋仲であるからなのだが、麟がそれを知る筈もない。 彼女の目には、一介の女中が副長ともあろう人間を呼び捨てている様子が奇怪に映ったのだ。 ところが、疑問を口にした途端土方は激しくむせ始めた。 キョトンとする麟に何かしらの弁解を試みるも、口からは咳しか出てこない。 歩だけが一人声を上げて笑っていた。
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