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『 なんで? いいじゃん、それくらい。俺、紗英ちゃんと仲良くなりたいなー彼氏になりたいなー 』
『 なんだよ、それ。誰にでもなんて言ってねえし。勝手に決めつけてんじゃねえよ 』
『 なあ、ちょっと、今のドキッとした? 』
『 ギャップって大事だよねー。ときめいた? 』
へらへらと笑って、ふざけた顔と真剣な顔を使い分けて話しかけてくる南の姿を思い出して、ぐぐぐっと眉間に皺が寄るのがわかった。
そうだ、アイツは最初っからそういう奴だった。きっと、昨日の言葉も前と同じようなものに違いない。
あそこで真に受けた途端、冗談でしたー、なんて笑いながら言ってくるに違いない。
あの時は確か鞄で横っ面を殴ってやったんだっけ。ああ、もう2、3発殴っとけばよかった。
南を引っ叩いた手を無意識に、ぎゅうっと握り締める。あのヘラヘラした顔を思い出すだけで、むかむかする。
偽りの真剣な顔、優しげな胡散臭い顔、子供みたいに笑ってるけどホントは何を考えてるのかわからない顔。
くるくるとよく表情を変えていたけれど、どれも信用出来ない。
ああ、なんかまたムカついてきた。きっとアイツはああいう顔をあたし以外にだって、簡単に見せてきたんだ。
真剣なんだっていう罠をしかけて、こっちが引っかかるのを待っている。あたしは絶対そんな罠にかかってなんかやらない。
また苛々し始めた不安定な気持ちのまま歩いていると、いつの間にかスタバに着いていた。
店の中はそれなりに客がいたけれど、座るところが無いってわけでもなかった。
店に入って、カウンターに向かう。苛々したときとか疲れたときには、あっまーいやつにかぎる。
にっこり笑って、いらっしゃいませ、と声を掛けてくる雰囲気だけ格好いい男の店員を見上げて、ぶっきらぼうに注文。
「チョコレートモカフラペチーノ、トールで」
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