信じてほしいなら、

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 ユウカネーとやらは、ガンっと乱暴に手に持っていた空のカップを置くと、背を向けて、颯爽とその場を去っていった。とりまきの連中が慌てて、その後を追っていく。  正論言われたからコーヒーを頭からかけるって、ヒステリック過ぎるでしょ。  ていうか、アンタがあたしにかけたやつ、あたしが注文したやつなんだけど。まだ半分も飲んでなかったんだけど。  ぼたぼたとチョコレートモカフラペチーノを髪から滴らせて、俯いたまま黙り込んでいるあたしに様子を伺っていた店員が近づいてきて、タオルを差し出してくる。 「あの……これ、よかったら使ってください」 「……ありがとうございます」  すっごい低い声でタオルを受け取ってから、顔を上げてべたべたする前髪を右手でかき上げる。  黙々とタオルで顔やら服、髪を拭う。服についた染みはとれないし。髪のべたべたも拭いたくらいじゃとれない。  周りの席っていうか店内中から集まる視線。もう、2度とこの店には来られない。ていうか、来たくない。  なんであたしがこんな目にあってんの。  あたしなんかした?バカ南なんて相手にもしてねーよ。  なんであたしが、アイツの女癖の悪さが招いた揉め事の八つ当たりをされなきゃなんないわけ。  それもこれも、あのバカのせいで……。  タオルを顔に当てたまま、あまりのやるせなさに涙さえもでない。タオルを掴んでいる手に力が入った。ふるふると震える。これは悲しいとか辛いとかではない。決して。憎い、悔しい。 「……く」 「お、お客様? どうかなさいま」 「ムカつくんだよ!! バカ南ーー!!」
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