信じてほしいなら、

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「……なにやってんのよ」 「うるせー。黙ってろ」  えっらそーに。  視線は手元に向けたまま、携帯をいじっている南。なんであたしが命令されて、こいつの行動を待ってなきゃいけないわけ?  沸々と苛立ちが湧き上がってきて、こんなバカ男放ってこの場から立ち去ってやろうかと思っていると、ようやく携帯の画面から視線を上げた南が持っていた男のくせにピンク系統の色をした携帯を差し出してきた。 「なによ」 「いいから、それ見ろよ」  無理やり手に持たされて、画面を見ろと指図される。ムカつく。何を考えているのかわからない南を、キッと睨んでからため息をひとつついて、視線を手元にある携帯の画面へと向けた。  自分の携帯とは違う造りの画面。電話帳。あかさたな……と五十音順に並んでいた。  あ行の欄には誰も登録されていない。  え?と思って、親指で操作して次の行に移る。か行の欄には『片岡さえ』という勝手に登録されたあたしの番号。それ以外は、なし。  次のさ行もた行も同じように空欄だった。最後のわ行までそれは続いた。  携帯の電話帳にはあたしの名前だけが登録されていた。  ……は? なに、このバカもしかして全部登録消したわけ?  言葉だけじゃ信用出来ないって言ったから?   信じられないという目で向かい側に立っている南を見る。持っていた携帯を押し付けた。 「……なにやってんのよ。バッカじゃないの!」 「バカじゃねーよ。他はいらねえってわかりやすく示しただけだろ」 「わかりやすくって……女以外の登録まで消してどうすんのよ!」  怪訝な顔で南を見ると、南は一瞬目を伏せて下唇を少し噛んだ後、視線をあたしへと向けて、口の端を少しだけ上げて笑った。 「別にどうもしねーよ。どうせ必要ねーし」  何か用があったら向こうから連絡来んじゃねーの、と笑って軽く言う。  南は携帯をジーンズのポケットに仕舞うと、あたしを真っ直ぐ見下ろして、口を開く。
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