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涙は中々止まってくれなくて、手の甲で目をこするとマスカラが落ちたのか手が黒くなってた。黒い涙とか、サイアク。涙まで可愛くないのか。目の中に入ったマスカラか睫毛が痛くてさらに泣けてくる。もう、なんなのよ。
「……痛い……」
夜道。ひとり立ち止まる。こんなときに限っていつも持ってる手鏡を忘れてきてるし。目は痛いし。涙は止まらないし。なんて最悪。なんてみっともない。
そう思って目に手を当てたまま俯いていた。夜道にひとり佇むあたしは周りから見ると結構怖いんじゃないかと思う。こんなとこ誰にも見られたくない。いつものあたしじゃないから。キモチも、顔も。ああ、絶対メイクとれてる。
早く帰って顔洗おう。それで、すっきりさせてからまた泣こう。なんておかしなことを考えていると、前から声をかけられた。
「なあ、大丈夫?」
聞きなれない声、というか、初めて聞いた声に顔を上げる。視線の先には1人の男。
薄い青色の学ラン。この制服、明治学園だっけ。前髪と襟足が長い。右目下の泣きボクロ。誰よ、あんた。
見知らぬ相手に返事はしない。
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