第五章・―過去―

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 小さな不幸が重なって、そんな理不尽な事がまかり通ってしまった明のその後の人生は、筆舌に尽くし難いものがあった。  結局犯人も捕まらず、一部の刑事や周囲の人間の反発もあり、明は無関係という決着がついた。  だが、事件を知る人間は奇異な目で見てくるし、頼れる身内もいなくなった明は孤児となり、父親の親友にして、一番庇ってくれた岩城医師が引き取り育てる事となる。  その頃にはすっかり人間不信に陥り、誰にも心を開かなくなった明を支えてきたのは、幼馴染みの令と岩城医師であった。  しかし明が成長し、父親と同じ警視庁捜査一課で働くようになると、事件を知る当時は刑事であり、昇進した上層部の人間は色々な意味で追い込まれる立場となる。  明は謂わば爆弾を抱えている、上層部にとっては厄介且つ要注意人物であるため、あまり強くは出られない。  そのせいというか、お陰で明の方も多少の無茶をしても、余程の事がない限り誰からも咎められない立場を手に入れたのだ。  つまり、明は一番憎んでいる筈の警察組織に入り、捕まえる事が叶わなかった、両親の仇である殺人鬼を捜し出し逮捕するという強い執念を抱いて生きているのだ。
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