現実逃亡人

花丘結衣の現実

　日差しがとても気持ちいい春。多分、誰もが心騒ぐ季節だというのに花丘結衣は、春を楽しめないでいた。

　センター試験をまで一年をきったクラスでは、さっき配られた模擬試験の結果で大勢の生徒の声が聞こえてくる。

　もちろん結衣の手元にもあるが、どうしてもじっくりとみることはできないでいた。

　『判定Ｅ』。

　これじゃあ、志望大学に入れるかどうか心配する以前の問題である、と結衣は心の中で思った。

　「ゆーい。どう？判定あがってた？」

　やけに明るい声で話しかけてきた姫川弥生に驚き、結衣は慌てて模試の結果を伏せた。

　「えっ…どう？って、もちろん判定あがってたわよ。」

　さっきまでしていた暗い顔を、なんとか笑顔に作り変えて結衣は答えた。

　「判定B。合格圏内よ。」

　「さっすがー。」

　もちろんそんなことは嘘である。

　しかし、嘘でも言わないと頑張っている自分の自尊心が傷つくのが、結衣は嫌で使方がなかったのである。