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屋敷の中には退屈そうな男が一人、ベッドの上に寝そべっていた。
その男の名は、エルヴィー=ヘイトレッド。人間に生み出された悪魔の人間である。
漆黒の髪、漆黒の目の男は闇という闇を纏っているイメージのある人間だ。
もう何日も外にでていない。
そんな男が毎日欠かさず行っている事といえば、二丁の拳銃の手入れくらいだ。
仕事がないとはいえ、手入れを怠っていては、いざという時に使えない。
「そろそろ鬱陶しいのが来るなあ……。冷蔵庫にアレあったけか?」
男がそう呟いて起き上がるのと同時に、部屋の扉が開け放たれた。
***
開け放たれた扉、その方向に俺は目を向ける。
艶かしい美しさを持つ淑女が立っている。
緋色の目と髪は炎のように紅い。それは、時によっては血のような紅さも見せるが、今の彼女は燃え上がる炎だ。
露出した肌は、病的なまでに白く、暗い空間でしなやかなボディーラインを、これでもかというほど見せつけている。
簡単に言えば、美しい。気品のあるその笑顔は、逆に毒々しいものの様に思える。
まあ、本当に毒々しいものであるのだが。
「会いたかったわ~エルヴィー♪」
その淑女が歌うように言った。その姿が、声が、仕草が明らかに俺を誘惑している。
「あはは、それはどうも……」
とりあえず愛想笑いで返しておいた。俺は会いたくなかった、などと言っては、ますます彼女の胸の内の炎を燃え上がらせるだけだ。
興味が全くないわけではないが、俺には既に、心に決めた人がいた。
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