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「お前、誰だ?」
その声に、少女の体はビクンと跳ねた。おそるおそるという風に、そろそろとゆっくりこちらへ顔を巡らせる。
フワフワとした柔らかそうなピンクの髪。新緑の若葉のような瞳。ふっくらした唇。
幼女という方が近いかもしれないぐらい愛らしい顔立ちをしている。
その少女は、こちらを認識すると、ほっとしたような、嬉しそうな笑顔を浮かべた。けれども、それはすぐさま絶望に打ち菱がれたかのような暗い表情に変わってしまう。
「?」
相反する2つの表情を浮かべた少女を少年は不思議に思った。
「え~と…『鍵』はこの部屋にあるのか?」
その質問に少女は答えずうつ向くと、キュッと眉根を寄せ、泣きそうな顔で呟いた。
「とうとう…この日が来てしまったのですね…
この日が来るのを私は望み、そして望まなかった。」
さっきの表情と同じく、矛盾した言葉。
とても気になるが、それよりも、
「なぁ、『鍵』は…」
言いかけたとき、少女は顔を上げスッと少年の目を見つめた。
泣きそうな顔なのに、強い意思が込められた瞳。
「『鍵』は、わたしです。
わたし、ノエル・クリスノーヴァ自身です。
」
少年は驚いた。こんな少女が『鍵』だと言うのだから。
「わたしを外へと出してくださったあなたのお名前は?」
「アレク・スノゥシス…」
少女は名前を聞くと、少年へと手をさしのべた。
少年がその手を握ると、儀式めいた言葉を綴り始める。
同時に少女と少年の周りが淡く光り始めた。
「では、アレク・スノゥシス。
この白き巨塔『誓いの塔』に認められし者。
あなたを私、ノエル・クリスノーヴァの所有者として認め、そして誓います。
旅の終りまで、私の力と私自身は貴方と共にある事を」
それは契約の言葉。
少女、ノエルが言葉を綴り終えたとき。
ノエルとアレクを包んでいた光が、さらに強まったかと思うと、バシュッと空高く一直線に放出された。後にはキラキラと無数の青白い光がこぼれて来る。
「これからよろしくね。
アレク。」
少女は依然、悲しそうではあったが、そう言うとかすかに微笑んだのだった。
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