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空に散りばめられた星々の灯りがひとつ、またひとつと消えていく。
空が闇色から水色をおびた灰色へと変化し、地平線との境界線が乳白色となる頃。
霧に包まれた森にある隠れ里。太い円柱に円錐が乗っかったような木造の家々が立ち並ぶそこは、宴会もとうに終り、静けさに包まれていた。
「う~ん…」
その中のひとつ、客用の家。
アレクは床に敷かれた布団の上でゴロゴロと寝返りを打っていた。
「何だったんだ?あれは…」
思い出されるのは、扉を開いた時。
『お前、誰だ!?』
声を掛けたあのワンシーン。
振り向いた彼女が見せたのは、喜び、そして絶望…
「…だったよな?」
だけど、宴会で里の者と話をしている彼女の表情は、
『笑ってる…』
笑顔…
それも悲しそうな、ではなく、楽しそうな。
矛盾した表情が気になって目で追っていたアレクは、首を傾げたくなった。
『どうしたんですか?アレク様』
里の者に呼び掛けられ、アレクはハッとした。
慌てて顔の前で両手を振る。
『な、何でもない』
『アレク様、旅の話聞かせて下さいよ!』
気になるのだが、アレクもノエルも里の者に囲まれ、話が出来る状況ではない。宴会が終わった時にでも、と思ったが、宴会が終わったのが夜更け。
それまでに、途中舟を漕ぎ始めたノエルは長老の家へ引き揚げ、休んでいた。
主賓が二人ともいなくなる訳にもいかず、アレクは宴会が終わるまで離れられなかった。
で、今に至る。
「わっかんねぇ~
塔から降りるまで、ずっと悲しそう…だったのに………?」
そういえば、塔を降りたとき、長老がノエルの耳元で何か囁いていたような…
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